子育て中のママは孤独になりやすい。ましてや渋谷区というご近所のつながりが薄い場所ではなおさらだ。渋谷区に住む山田博美さんは子どもが生まれた後、まちで挨拶できる人がほしいと感じ、子育て中のママたちがつながり、助け合える2つのコミュニティを始めた。
同世代の子どもを持つママが集まる「Shibu mama(渋谷ママ活!)」と、恵比寿周辺で世代を問わずに参加できる「エビママ!時々パパ」。2013年に活動を始めてから4年。まちを歩けば頻繁に、子連れママの知り合いに会うようになった。「渋谷を地元と感じるようになりました」と山田さんは嬉しそうに言う。
山田さんと、ママコミュニティを一緒に運営する岡田容子さんに話を聞いた。
情報交換・交流で渋谷の子育ての孤独感を解消
2つのコミュニティでは、イベントやSNSを活用して、子育てに関する情報交換や交流をする。「子育ては誰もが初めての経験。何もできない自分が嫌になることもあります。でも、イベント後はみんなホッとして帰っていきます。みんなも大変。自分一人じゃないと思うと、また明日から頑張れます」。
山田さんは一人目の子どもが生まれてすぐの頃、渋谷区が開く「ひよこママの時間」という生後間もない赤ちゃんを育てるママの交流の場に参加した。
「普段は子どもと二人きり。大人としゃべりたいという思いがありました。でも、初対面でどういう人たちかも分からないので、イベント後に参加者同士でつながることはありませんでした」。
そこで、山田さんはSNSで非公開グループを作って、ひよこママの参加者にグループの参加を呼びかけた。SNS上では、自己紹介をしたり、参加する子育てイベントの情報をアップしたりと、次に会うときに仲良くなるきっかけが生まれた。少しずつ輪が広がっていき、現在は85人ほどがグループに登録する。
多世代・パパも参加する渋谷の子育てコミュニティに
Shibu mamaは同世代のコミュニティだが、世代をまたいだコミュニティの必要性を感じて、年代を問わずに集まれる新しいコミュニティ「エビママ!時々パパ」を2016年、恵比寿近辺在住者を中心に始めた。
「時々パパとしたのは、パパたちにも地域の人と仲良くなってほしいという願いから」。
定期的なイベントの他に、恵比寿にある区民菜園を借りて、10家族ほどでトマトやトウモロコシなどの野菜を育てている。「イベントはママが多いが、畑ではパパが大活躍。普段はパパに子どもをもっと見てと言っても変わらないが、他の家庭の子どもを見ることで、自分の子どもの見方や子育てへの協力度合いが変わっていきました」。
渋谷で「保活」は協力して情報収集
子育てママが抱える大きな悩みは「保活」(保育園に子どもを入れるための活動)。Shibu mamaで最初に開いたのも保活の勉強会だ。地域の細かい情報や、保育園のリアルな評判はインターネットで調べても分からない。かといって、一人ですべての保育園を見学に行くことは難しい。
そこで、それぞれが見学に行った情報を持ち寄り、保育園や保育士さんの雰囲気、子どもの様子などをシェアをした。同世代の子どもを持つママたち。ともすればライバルになることもある。
しかし岡田さんは「ライバルというより、単純にみんなが入れたら嬉しい。マイナスよりもプラスが多いし、みんなが希望の保育園に入れて、安心して仕事を再開できたらいいよねという気持ちです」とにこやかに語った。
子育て世代が社会に貢献
「子育ては助けられることが多い。でも、子育てをしていることで貢献できることもある。子育て世代が社会に貢献するという状態を作りたいです」と、山田さんは今後のビジョンを話した。
一つは学生に子育てを伝えること。「今の社会では育児に携わりながら、仕事も続けないといけない。将来にそういう大変なことがあることを知ったうえで、社会人になってほしい。子育てには、会社選びとかパートナー選びもとても重要なんです。私たちはぶち当たってから考えるしかなかったから、ちょっとくらい知る機会があってもいい。実際に子育てをしている私たちを見て、知ってほしい」。
もう一つは、行政への提言。保活勉強会の参加者で保育園に入れない人もいた。みんなが保育園に入るためには、制度面の改善も必要。コミュニティのメンバー50人ほどからアンケートを集めて、リアルなママの声を渋谷区議の岡田マリさんに届けた。すると翌年、保育園の発表時期を早めてほしいという要望が実際に改善された。
「保育園を増やすハード面は難しくても、ソフト面なら変えられるという経験を得られました。利用する側から良くしていきたいという立場で改善を求めれば、変えることができる」。
渋谷という大都会で、自分たちの力で、地域に根ざしたコミュニティを作り、住み良い地域社会を切り拓いていく。子育てママたちの奮闘は続く。