手話を完璧に身につけるのは大変だ。聴覚障がい者で手話を用いない人もたくさんいる。手話を使えるということは一つの言語を使えるということで、日本でも2011年に、改正障害者基本法案で手話の言語性が明記された。世界的に見ても手話を言語の一つとして認める動きが広がっているという。つまり、手話は言語であり、一朝一夕に覚えられるものではないということだ。
手話を「カタコト」だけ使える人が増えるとどうなる?
一方で日本人が長く学び続けている英語はどうか。英語を流暢に話せる日本人は多くはないが、「カタコトの英語」ならば中学で英語を学んだ人なら大体は使えるはずだ。仮に手話を「カタコト」だけ使える人が増えるのであれば、聴覚障がい者の世界は変わるのではないか。聴覚障がいのある人が手話を覚えないのは、手話を覚えても使える聴者(聴覚に障害が無い人のこと)がいないことが理由にもある。仮定の話が続いてしまうが、カタコトでも手話でコミュニケーションできる人が増えるならば、ろう者と聴者の言葉の壁は一気に低くなるのではないか。
アメリカに聴覚障がい者の遺伝子が受け継がれろう者が多く住むマーサズ・ヴィニヤード島がある。ここでは、島民のほとんど全員が島独自の手話を身につけていて、コミュニケーションに口語と手話を混ぜて会話をする。調査によると、島民は誰が聴覚障がい者かあまりはっきりと認識していなかったという。
つまり手話という言語を全員が使えることで、ろう者と聴者のコミュニケーションに不便はなくなるのだ。(もちろん電話などはまた別の課題もあるので全てではないが)。
日本では100人に1人が耳にハンディを持つ
耳にハンディを持つ人は、日本では100人に1人いると言われている。これは聴覚障がいだけではなく、年と共に難聴となることも含めるので、誰でも耳にハンディを持つ可能性があるということだ。カタコトでも手話を身につけると人が増えれば未来の社会は少し豊かになるのではないか。そんな思いをもってこの記事を書いた。
手話を勉強するには、手話講座を開いている自治体は多いので、それを受けてみたり、地域の手話サークルに入ってみたり、またNHKの「みんなの手話」という番組も楽しみながら手話を勉強できて面白い。V6の三宅健さんがナビゲーターだ。
みんなの手話:http://www.nhk.or.jp/heart-net/syuwa/
また、アプリで手話を勉強できるものも出ている。通勤、通学に勉強してみてもいいかもしれない。
ゲームで学べる手話辞典:
https://itunes.apple.com/jp/app/gemude-xueberu-shou-hua-ci/id779515889?mt=8&ign-mpt=uo%3D4
目標があったほうが身に付くという人は手話検定を目指すのもおすすめだ。
手話検定:http://www.com-sagano.com/kentei/HP/kentei-menu.html
指文字だけでも、カタコトでも話せると学ぶのも面白くなってくる。使う機会を作るために、ろう学校や聴覚障がいセンターなどでボランティアをしてみるとモチベーションもあがってくる。まずは手軽に始められるところから初めてみてほしい。
阿波踊りで聴覚障害に対する理解を深め手話を社会に広める
聾も難聴も健聴も一緒がコンセプトの「練馬区聴覚障害者協会だいこん連」という団体もある。だいこん連は1986年8月に発足し、30年の歴史を持つ団体で、練馬区聴覚障害者協会と手話サークル練馬こぶし会の合同連だ。「阿波踊りを通して、聴覚障害に対する理解を深め、手話を社会に広めていきたい」という思いからスタートした。聴覚障がいのある女性が3代目の連長を務める。連員は耳が聞こえる人も聞こえない人も含め、60人ほどの大所帯だ。
健聴者の連員にコミュニケーションはどうしているのかを聞くと、「だいこん連に入り数年経つ。手話も日常会話ほどしかできないが、コミュニケーションは問題ない」と言う。「英語は日常会話ができたら、外国人と仲良くなれる。手話も同じ。簡単な単語さえ分かればあとは人と人とのコミュニケーションだ」。
耳が聞こえない人も、ぴたりと息のあった踊りを見せてくれた。どうやって踊りを合わせているか。「仲間の肩の動きや、足元を見て、タイミングを合わせている」と連員の1人が説明した。「太鼓の音は聞こえなくても、響きを身体で感じている」。
阿波踊りには、「踊る阿呆(あほう)に、見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン」という言葉がある。企画の最後には、参加者も一緒になり阿波踊りを踊った。踊りや音楽は国境を越えると言う。手話ができなくても障がいの有無を越えて通じ合える機会となった。
聴覚障害者へのボランティアー情報保障とは
あなたが最近参加したイベントやセミナーに情報保障はあっただろうか?
私は取材などでNPOのイベントなどに参加することも多いが、ほとんど用意されていない。そもそも情報保障という言葉さえ知らない人も多いだろう。聴覚や視覚など身体的なハンディがある人は、情報を取得することができないことがある。誰でも平等に情報を取得できるように、代わりの方法を用いて情報提供することが、「情報保障」だ。
「手話通訳」は目にしたことがあるだろう。学校の卒業式や入学式などで手話通訳者が壇上に立っていることも多い。ただ、意外に思う人もいるだろうが、聴覚障がい者の中には手話を知らない人もいる。補聴器をつけていれば言葉をある程度聞き取れて、読唇ができる人なら、日常生活では問題なく会話ができるので、なおさら手話を覚える必要がなくなってくる。
しかし、面と向かって話していれば問題はないが、大勢に向かって話すイベントや学校の授業などは、情報保障がないと聞き取ることは難しい。情報保障で手話があっても分からないので、このときには、「要約筆記」の手法を用いる。ノートテイクやパソコンテイクとも呼ばれるが、要は話していることの要点をまとめて聴覚障がいのある人にリアルタイムに見せていくという方法だ。パソコンテイクの場合は、ペアで行うことで、内容全てをタイプすることも可能だ。
この要約筆記が多くの場で導入されたら、手話を知らない聴覚障がい者も手話のできる聴覚障がい者も全員に情報保障ができる。けれども、導入にはコストも手間もかかるため、なかなかすべてのイベントには難しいとされている。手話通訳は一人いればできなくはないが、どちらにしてもコストがかかるため、一般的に開かれているイベントでは情報保障のあるイベントはほとんどない。情報保障ないことで聴覚障がいのある人は、そういった場に出なくなり情報格差が広がっていってしまう問題が出てくるのだ。