東洋経済新報社が毎年作成する「CSR企業ランキング」。2025年で19回目となった。このCSR企業ランキングの対象となっているのは、1715社。内訳は、上場企業が1622社、未上場が93社と、上場企業を中心の指標となっている。
ランキングを見ると、2025年は1位が富士通、2位がJT、3位がデンソーと続く。
CSR企業ランキングは7分野600点満点の総合評価
まず、注目したいのが分野ごとの順位だ。1位の富士通が全ての項目で上位にはなっていない。環境で4位、企業統治・社会性で2位だが、人材活用では30位となっている。

CSR企業ランキングは、4つのCSR分野と財務面の3つの項目の評価基準がある。CSR分野は、「人材活用」「環境」「企業統治」「社会性」。財務は「収益性」「安全性」「規模」の3つだ。CSR分野は4つあるが、企業統治と社会性は二つで一つとなっているため、「人材活用」「環境」「企業統治+社会性」でそれぞれ100点満点。財務も3つそれぞれが100点満点となり、合計600点満点で総合評価となる。
そのため、2025年のCSR企業ランキング総合1位の富士通でも、各分野別に見ると突出しているわけではなく、全体平均で1位となったことがわかる。
CSR企業ランキングから何を知りたいかにもよってくるが、総合的に「信頼できる会社」を知るためには総合評価のランキングをチェックするのがいいだろう。CSR企業ランキングは以下のように定義されている。
CSR(企業の社会的責任)と財務の両データから「信頼される会社」を見つける「CSR企業ランキング」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000219.000004767.html
分野別では、CSR人材活用1位は「ファンケル、ピジョン、ゆうちょ銀行など」
さて、総合的に信頼できる会社という点ではいいのだが、CSR企業ランキングという名前だが、「財務」が評価の半分を占めているのは気になるところ。人材活用が突出していても財務面で規模が大きくなければ、総合評価は下がるということだ。
人材活用の上位の企業は顕著にそれが出ている。以下の画像にあるように、100点で1位となっているファンケル、ピジョン、ゆうちょ銀行、三菱UFJフィナンシャルグループ。しかし、総合評価では、ファンケルが147位、ピジョンが233位。

人材活用の評価項目も公開されている。ジェンダー・LGBT・障害者などDEIに関わる指標だけでなく、「離職者状況」「新卒入社者の3年後定着度」などの「人材定着」に関わる指標もある。
つまり、この人材活用の項目が高いということは、働きやすく、残業も少なく、やめる人も少ない会社ということが見えてくる。
CSR企業ランキングを見て、財務の規模が大きい会社を選びたいというより、一番は働きやすい会社を見つけたいという人にとっては、この人材活用の項目を高めに見ておくといいかもしれない。
1. 女性従業員比率
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000219.000004767.html
2. 男女別賃金
3. 世代別女性従業員数
4. 離職者状況
5. 年間総労働時間の開示
6. 残業時間・残業手当
7. 残業削減の取り組み
8. 30歳平均賃金
9. 外国人管理職の有無
10. 女性管理職比率
11. 女性部長比率
12. 女性役員比率
13. ダイバーシティ推進の基本理念
14. 多様な人材登用部署
15. 多様な管理職登用(比率)の目標値
16. 障害者雇用率(実績)
17. 障害者雇用率の目標値
18. 65歳までの雇用・定年後の就業機会
19. 正社員の定年年齢
20. LGBTへの対応
21. 有給休暇取得率(最新年度)
22. 産休期間
23. 産休取得者
24. 育児休業取得者
25. 男性の育児休業取得者数・取得率
26. 配偶者の出産休暇制度
27. 介護休業取得者
28. 看護休暇・介護休暇
29. 退職した従業員の再雇用制度
30. ユニークな両立支援制度
31. 勤務形態の柔軟化に関する諸制度
32. テレワークの導入
33. 副業・兼業
34. ハラスメント防止
35. 従業員のインセンティブを高めるための諸制度
36. 労働安全衛生マネジメントシステム
37. 労働安全衛生分野の表彰歴
38. 労働災害度数率
39. メンタルヘルス休職者数
40. 人権尊重等の方針
41. 人権尊重等の取り組み
42. 中核的労働基準を尊重した経営
43. 人権デューデリジェンスの取り組み
44. 能力・評価結果の本人への公開
45. 従業員の評価基準
46. 1人当たり年間教育研修費用・時間
47. 従業員の満足度調査
48. キャリア形成支援
49. 新卒入社者の3年後定着度
50. 発生した労働問題の開示
CSR評価項目「環境」の一位は・・・

こちらの表にあるように、キヤノンと三井住友フィナンシャルグループが1位。総合順位は4位だ。続いて、NTTコミュニケーションズが続くが、総合では46位。CSRの取り組みをよく聞く丸いグループも同率4位だが、総合では101位と低い。
環境の評価項目は、以下36個からなる。
1.環境担当部署の有無
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000219.000004767.html
2. 環境担当役員の有無
3. 環境担当役員の担当職域
4. 環境方針の文書化の有無
5. 環境会計あるいはそれに準ずるものの有無
6. 環境会計あるいはそれに準ずるものにおける費用と効果の把握状況
7. 環境データ・環境会計データ等の開示(パフォーマンスの開示状況)
8. 環境監査の実施状況
9. ISO14001取得体制
10. ISO14001取得割合(国内・海外)
11. グリーン購入体制
12. 事務用品等のグリーン購入比率
13. 原材料のグリーン調達
14. 原材料調達の取引先対応
15. 環境ラベリング
16. 土壌・地下水の汚染状況把握
17. 水問題の認識
18. 環境関連法令違反の有無
19. 環境問題を引き起こす事故・汚染の有無
20. 環境問題に関する苦情の有無
21. 環境分野・CO2排出量等削減に関する中期計画の有無
22. スコープ3
23. 炭素利益率(ROC)
24. 温室効果ガス(スコープ1+2)排出量削減
25. 廃棄物等総排出量削減
26. 2023年度の環境目標・実績
27. 気候変動対応の取り組み
28. 気候変動に関するシナリオ分析
29. 再生可能エネルギーの利用
30. カーボンプライシングの認識
31. 環境関連の表彰歴
32. 環境ビジネスの取り組み
33. プラスチック削減の取り組み
34. 事業活動による生物多様性への影響の把握
35. 生物多様性保全に関する取り組み
36. 生物多様性保全プロジェクトへの支出額
CSR「企業統治」「社会性」
以下は、企業統治と社会性の項目一覧。CSRにおいてNPOとのパートナーシップは重要ではあるが、言葉として入っているのは社会性に一つ「NPO・NGO等との連携」だけ。ボランティアというキーワードは、「ボランティア参加・休暇」「ボランティア休職・青年海外協力隊参加」「ボランティア休暇制度等の従業員への周知」の3つ。さらに、企業統治と社会性の項目は二つで100点となるため、他の項目よりも重みが少なくなっているのだ。
1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念
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2. CSR活動のマテリアリティ設定
3. ステークホルダー・エンゲージメント
4. 活動報告媒体における第三者の関与
5. 英文での活動報告
6. CSR担当部署の有無
7. CSR担当役員の有無
8. CSR担当役員の担当職域
9. CSR方針の文書化の有無
10. IR担当部署
11. 法令順守関連部署
12. 国内外のCSR等関連基準への参加等
13. 内部監査部門の有無
14. 内部通報窓口(社内・社外)設置
15. 内部通報者の権利保護に関する規定制定
16. 内部通報件数
17. 公正取引委員会からの排除措置命令等・他
18. 不祥事などによる操業・営業停止
19. コンプライアンスに関わる事件・事故による刑事告発
20. 海外での価格カルテルによる摘発
21. 海外での贈賄による摘発
22. 汚職・贈収賄防止の方針
23. 政治献金等の開示
24. 内部統制の評価
25. 相談役・顧問制度の状況についての開示
26. 社外取締役による経営者評価
27. 任意を含む指名・報酬委員会等の設置
28. ESG等関連指標の役員報酬への反映
29. 情報システムに関するセキュリティポリシーの有無
30. 情報システムのセキュリティに関する内部監査の状況
31. 情報システムのセキュリティに関する外部監査の状況
32. 情報セキュリティに関する教育・社内浸透の取り組み
33. プライバシー・ポリシーの有無
34. リスクマネジメント・クライシスマネジメントの体制
35. リスクマネジメント・クライシスマネジメントに関する基本方針
36. リスクマネジメント・クライシスマネジメントに関する対応マニュアルの有無
37. リスクマネジメント・クライシスマネジメント体制の責任者
38. BCM構築
39. BCP策定・想定
40. リスクマネジメント・クライシスマネジメントの取り組み状況
41. 企業倫理方針の文書化・公開
42. 倫理行動規定・規範・マニュアルの有無
1.消費者・取引先対応部署の有無
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2. 社会貢献担当部署の有無
3. 商品・サービスの安全性・安全体制に関する部署の有無
4. 社会貢献活動支出額
5. NPO・NGO等との連携
6. ESG情報の開示
7. 投資家・ESG調査機関等との対話
8. 消費者・取引先からのクレーム等への対応マニュアルの有無
9. 消費者・取引先からのクレームのデータベースの有無
10. ISO9000Sの取得割合(国内・海外)
11. ISO9000S以外(独自等)の品質管理基準
12. 地域社会参加活動実績
13. 教育・学術支援活動実績
14. 文化・芸術・スポーツ活動実績
15. 国際交流活動実績
16. サステナブル調達の実施
17. サステナブル調達の取り組み事例
18. 取引先に対する基本方針
19. 紛争鉱物の対応
20. SDGsの目標への意識
21. SDGsの目標達成基準
22. SDGs17の目標対応状況
23. 社会課題解決ビジネスの取り組み
24. 海外での社会課題解決の活動等
25. ボランティア参加・休暇
26. ボランティア休職・青年海外協力隊参加
27. マッチング・ギフト
28. ボランティア休暇制度等の従業員への周知
29. 従業員向けの社会課題解決への関心を高める取り組み
30. プロボノ支援
31. CSR関連の表彰歴
32. 自然災害・パンデミック等への支援
CSRと財務に出てくる企業の違い


CSR評価ランキングのCSR合計と財務の上位5社は全く異なっている点は面白いところだ。
財務5位のキーエンスは時価総額ランキングや年収ランキングで上位に来る企業であり、財務面は強い。一方でCSRの項目は高くないのか、総合順位では781位となっている。
CSR企業ランキングをどう読むか
最後にCSR企業ランキングをどう読むか。筆者の私見とはなるが、総合評価は見ないで、各項目ごとにチェックする。もしくは少なくともCSR合計と財務合計は分けてみる。その方が、本当のCSR企業を知ることができるのではないかと思っている。
とはいえ、こうした指標は東洋経済でしか見られないため、就職・転職時の企業選びや、エシカル消費の時などに参考とすることはできる。