太平洋の赤道付近にある島国キリバスが今、存亡の危機にある。
キリバスは人口約11万人。海抜は2メートル。首都タラワのある島の横幅は約350メートルと縦に長い。美しい島と美しい海が魅力的な国だ。
気候変動の影響で海面が上昇し、海岸線が削れていき、水没し既に住めなくなった島もある。日本生まれのキリバス人ケンタロ・オノさんは「もう待っていられない。今、なんとかしなくては」と強く訴える。
「今の子どもたちに、大人になったら国がなくなり、難民になっているかもしれないとは言いたくない」
キリバスが今のままでは水没してしまうかもしれない
オノさんがキリバスに魅せられたのもその美しさだった。10代で移住し、23歳のときにキリバス国籍を取得した。仙台生まれのオノさんは、東日本大震災以降日本に戻って来た。現在はキリバス共和国名誉領事・大使顧問として、キリバスと日本を行ったり来たりする生活を送る。
だが、そのキリバスが今のままでは、水没してなくなってしまうかもしれない。「今、海岸線が削られている。今、学校や病院にまで海水が届くようになってきている」とオノさんは現状を伝える。
世界銀行の予測では、2050年までに、タラワのある島の5~8割が浸水する可能性があると警告している。すでに住めなくなった村もある。塩害で朽ちたヤシの木の光景は特別ではなくなってきている。以前は50年に1回だった環境変化が5年に1回、1年に数回と頻度が高くなっている。
キリバス人は海に生かされている 海なしには生きられない
海面が上昇すれば国がなくなってしまう。だが、その前に、人が住めなくなることが懸念されている。キリバスは山や川がなく、水は雨水を地下に貯水して使用している。だが、海面上昇や大型の台風で地下に雨水が入ってしまうと、貴重な水に海水が混ざり飲めなくなってしまう。「キリバス人は、世界で一番しょっぱい水を飲んでいるかもしれない」という。
海水温度の上昇も懸念される。サンゴが広がる美しい海が魅力だが、そのサンゴが海水温度上昇で白化(死滅)が進んでいる。これは沖縄でも同様の減少が起こっている。サンゴが白化すると海中の生態系に影響を及ぼす。サンゴ礁で生息する生き物は生きる場所をなくしてしまい、それをエサにしていた魚も生きていけなくなる。
漁業が最大の産業であり、日々のタンパク源である魚が食べられなくなれば、キリバス人にとっては致命的だ。仕事もなくなり、食料危機になる。
「キリバス人は海に生かされている。海が文化と生活の中心にあるため、海なしには生きられない」
キリバスは二酸化炭素出していないのに
世界の二酸化炭素排出量ランキングによると(出典:国際エネルギー機関)、キリバスは例年190
位代だ。日本は世界5位。つまり、世界のほとんどの国よりも、キリバスは二酸化炭素を出していない。だが、気候変動の影響を真っ先に受け、存亡の危機にあるのもキリバスだ。
「これは環境問題ではない。人間が引き起こして人間に影響を与えている。気候変動の話しでは、氷河がなくなりかわいそうなシロクマの写真が出てくるが、キリバス人もふるさとがなくなる危機にある」とオノさんは強調した。
世界の国々が気温上昇1.5〜2度に抑えることを目指すパリ協定は素晴らしいことだが、複雑でもあるという。「キリバスでは今、海面が削られている。今、目の前で起きている。2050年にはどうなってしまうのだろうか。今、国と国民が存亡の危機にある」。
オノさんが日本人に伝えるのは、キリバスや同様の島国にいる、子どもたちの「未来の当たり前」を守るために、今できることをやっていってほしいということ。小さなライフスタイルの変換でいい。オノさんは宮城県の小学校や中高でも、積極的に講演を行い、キリバスの現状や今できることを伝えている。「まずは関心を持ち、理解してほしい」