障がい者が健常者を「おもてなし」ーー心のバリアをなくす川崎市とNPOのまちづくり

2017/01/06 NPO・CSR ライター 辻陽一郎


応援グッズをおずおずと手渡す知的障がいのある若者。あれっという表情をする観客。等々力アリーナ(神奈川県川崎市)で行われた女子バレーボール国内リーグの試合で、約2000人の観客を出迎えるスタッフの中には知的障がいや精神障がいの人たちがいた。

「日本人は障がい者と接することに慣れていない。障がい者に対する無知が恐怖を生み、慣れてないから心のバリアが生まれ、差別につながってしまう。だから障がい者と出会う機会を増やして慣れてもらうことで、差別を解消したい」と話すのはNPO法人ピープルデザイン研究所の田中真宏さん。

■障がいがあってもなくても人々が自然に混ざり合うまちをデザイン

川崎市とピープルデザインが連携して、2014年から障がい者の就労体験事業を開始した。目指すのは、障がいがあってもなくても人々が自然に混ざり合う「まち」をデザインすることだ。

日本の社会はこれまで、障がい者などのマイノリティを分離してきた。働く場も生活する場も施設の中。閉鎖的な生活を送ってきた。しかし、両者が目指す「ダイバーシティなまち」とは、違いを知り、違いを認め合い、誰もが生きやすい空間だ。

女子バレーボールでの接客体験もその事業の一環だ。障がい者が半日ほどイベントで観客を誘導したり、接客したりという「就労体験」を行い、ふれあう機会を作る。ふれあう回数が増えることで、少しずつ障がい者に対する心のバリアが取り除かれていくだろう。

この就労体験事業は、基本的に毎週土曜日に実施している。バレーボールだけでなく、Jリーグやアメリカンフットボールなどのスポーツイベント、音楽フェスなど、明るくワクワクするようなイベントばかりだ。

参加者は川崎市内の福祉事業所から、希望する障がい者など。毎回平均して10人ほどが参加。リピーターも多い。

■障がい者本人の成長にもつながる

観客にグッズを手渡す

観客にグッズを手渡す

昨年12月の女子バレーボールの試合では事業所の職員も含め14人が参加した。この日は障がい者だけでなく、市内のホームレス自立支援施設からも数名の参加があった。等々力アリーナに朝9時半に集合し、13時頃までテントを設営したり、観客にグッズを渡したり、列の整理をしたりと、障がいのある人もホームレスの人も、さまざまな「違い」を持つ人たちが協力して働く。

知的障がいのある24歳の若者は、他施設の障がい者とも積極的にコミュニケーションをとっていた。1時間ほど一緒に作業をしていると初対面でも自然と仲良くなっていく。

この就労体験は、障がい者に対する無知を解消するだけでなく、障がい者の成長にも寄与している。施設での仕事は、電球の袋詰めや箱折りなど屋内での作業が中心。そのため、人との出会いや新しい発見はほとんどない。

施設も年齢も超えて仲良くなる

施設も年齢も超えて仲良くなる

一緒に参加した施設の職員は「施設内では同じ人としか会わないけれど、ここでさまざまな人と出会うことで、新たな一面を発見できた。就労体験に参加するようになって成長を実感している。普段の作業にも影響していて、自主的に状況を見て仕事をするようになった」と嬉しそうに話した。

■本当に違いを認め合い、混ざり合う社会とは

昨今、企業では障がい者の雇用が促進されている。障がい者に適した環境と業務を用意する特例子会社を設立するところも多く、障がい者にとっては企業で働く選択肢が増え可能性も広がってきている。

しかし、違いを認め合い、真に混ざり合う社会になるには、もう一歩進む必要があるだろう。川崎市とピープルデザインが取り組む就労体験のように、障がいのあるなしに関わらず一緒に働く。障がい者の可能性を制限したり、分離したりしない。

まだまだダイバーシティなまちづくりは発展途上だ。一昔前は肌の色が違う外国人が珍しく、差別されることもあった。しかし、今では働く人も増え、レストランなどでも当たり前になってきた。むしろ、外国人なくしては日本社会は成り立たない。

障がい者が働く姿を当たり前にまちで見かけるようになれば、日本の社会はきっと誰もが住みやすいまちに近づくだろう。


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2017/01/06